メールマガジン「人事・総務レポート」
2020年03月 Vol.134
1.人事・総務ニュース
心理的負荷要因にパワハラを追加 ~労災の認定基準見直し
厚生労働省は、精神障害に対する労災認定基準の見直しに着手しました。令和2年6月から、パワーハラスメント防止の措置義務が課されるのを踏まえた措置です。
業務によるメンタルヘルス不調については、現在、「心理的負荷による精神障害の認定基準」(平23・12・26基発1226第1号)に沿って労災認定が行われていますが、労災請求件数は6年連続で過去最多を更新している状況にあります。
現行基準では、発症前6カ月間に業務による強い心理的負荷があったこと等が認定要件とされ、パワハラに近い事由として「嫌がらせ、いじめ、暴行」や「上司とのトラブル」等が挙げられています。
しかし、パワハラは「嫌がらせ、いじめ」とは異質な面があるとの見方から、独立した事由としてパワハラを分離し、その定義や強度を検討するとしています。
同省では、令和2年度中に調査を実施し、翌3年度以降に基準の改定を図る方針です。
最大52時間分を還元 ~働き方改革で減少の残業代~
東急建設㈱は、働き方改革により減少した残業代を、一時金として還元する新施策を講じました。対象者は、若手・中堅社員を中心とした「キャリア職」の総合職・一般職で全社員の4割に相当します。
同社では、18年7月にフレックスタイム、テレワーク、勤務間インターバル、時間単位年休など、労働時間制度の全面見直しを実施しました。
その前年度を基準として、残業時間の変化を計算したところ、総合技術職は年平均52時間、総合事務職は5時間の減少という結果が出ました。
同社広報では、「来年度以降も、年2回実施している従業員サーベイの結果をみて、取組の継続を判断する」としています。
前年水準の維持は困難か ~識者が20年賃上げを予想~
昨年10月の消費税率引上げ後の消費の落ち込み、今年夏のオリンピック・パラリンピック後の景気息切れなど、日本経済は減速への不安を抱えています。賃金コンサルタントの予想では、令和初の賃上げは昨年を若干下回りそうです。
プライムコンサルタントの菊谷寛之代表は、「経済指標に陰りがみえ、企業の賃上げ余力が減少する一方、同一労働同一賃金をにらんだ非正規待遇改善等の要請もあり、今年のベアは昨年(1300円)より低い1000~1200円程度、全体(定昇+ベア)で2.1%前後の引上げ」と予測します。
賃金システム研究所の赤津雅彦代表取締役は、「横並び習慣が残る大手企業が内部留保を有効活用せず、中小中堅企業のトップが『底上げ』『格差是正』の取組を弱めれば、賃上げは伸び悩み、2%に届かない可能性も出てくる」と警鐘を鳴らします。
2.職場でありがちなトラブル事情
健康診断書を出したら内定取消 ~Uターン就職の夢が水の泡~なかなか思うような会社がみつからない中、ハローワークの紹介で地元の派遣会社の採用面接を受けました。前職での経験を高く評価され、とんとん拍子で話は進み、内定を経て、労働条件通知書の交付も受けました。 しかし、「好事魔多し」とはこのことです。採用手続きの一環として健康診断を受け、結果を会社に送付したところ、事務所に呼び出され、内定取消を通告されました。 急転直下で故郷での再就職話が白紙に戻ってしまったAさんは、誠実な対応を採るよう派遣会社を指導してほしいと都道府県労働局長に求めました。 |
従業員の言い分
健診結果については、医師から何か指摘を受けたわけでなく、世間一般の常識からいって、内定取消の理由となるような重大な疾患があったわけではありません。
「内定」が私の一方的な思い込みでない点は、その後、労働条件通知書の交付を受ける際、担当者が「受け持つ会社はB~D社になると思う」等の具体的な業務指示を出していた事実等によっても、裏付けられるはずです。
事業主の言い分
派遣会社の管理業務は時間外の対応など負担が大きく、採用に際し健康状況には特に注意を払っていますが、Aさんの診断結果をみて当社での就労に耐えられないと判断しました。
ただし、最初の面接時に、人事部長が「採用する」と口にしたのは事実で、採用がムリな以上、金銭補償について話し合うほかないと考えています。
指導・助言の内容
会社が口頭で採用する旨の意思表示をし、Aさんの健康診断の領収書には「雇入れ健康診断」という記載があった等の事実から、両者は既に契約成立後の手続き段階に入っていたと推測されます。
事業主に対して、「雇入れ健康診断」は、入社後の適正配置・健康管理のために行うもので、採用の判断基準とすべきものではない点を説明し、誠意ある対応を求めました。
結果
会社側が金銭による解決を申し出て、入社していた場合の給料1カ月分25万円と健診費用1万円の合計、26万円を支払うことで両者が和解しました。
3.厚生労働省「平成30年若年者雇用実態調査」
人手不足が深刻化・慢性化するなか、有能な若年労働者の補充は容易でないのが現状です。苦労のすえに採用しても、2、3年で辞めていく若年者も少なくありません。その定着対策は、採用戦略と同様に重要です。
厚労省調査によると、若年正社員(15~34歳)の定着対策を行っている企業割合は72.0%に達しています。対策の内容(複数回答)をみると、「意思疎通の向上」(59.0%)、「能力・適性にあった配置」(53.5%)などが上位に並んでいます。
中小企業にとって、新卒者は「高嶺の花」です。そこでクローズアップされるのが「フリーター」の存在ですが、フリーターが正社員求人に応募してきた場合、68.1%の企業がフリーターの経験は「評価にほとんど影響しない」と回答しています。
フリーターの選考に際し、重視する項目(複数回答)に関しては、「職業意識・勤労意欲・チャレンジ精神」(68.7%)、「マナー・社会常識」(59.8%)、「コミュニケーション能力」(52.5%)の順となっています。
4.身近な労働法の解説 ~退職証明書の交付~
労働者が退職したときに、雇用保険の離職票や健康保険の資格喪失証明書のほかに、退職証明書の交付を求められることがあります。 退職証明書は、使用者が作成し交付するもので、労基法22条で定められています。
1.退職時等の証明
(1)労働者が、退職の場合において、次の事項ついての証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければなりません(労基法22条1項)。
○使用期間 ○業務の種類 ○その事業における地位 ○賃金
○退職の事由(解雇の場合はその理由を含む)
(2)解雇の予告がされた場合は、予告がされた日から退職の日までの間に解雇の理由について証明書を請求した場合、使用者は遅滞なく証明書を交付しなければなりません。
ただし、解雇予告日以後に解雇以外の事由により退職した場合は、使用者は、退職の日以後、証明書を交付することを要しません(労基法22条2項)。
2.退職証明書に記載する事項
証明書の書式は決まっていませんが、次の点に留意します。
・証明書には、上記1.(1)の5項目のうち、労働者の請求しない事項を記入してはなりません(労基法22条3項)。労働者の証明してほしい項目をきちんと確認することが大切です。
・あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分もしくは労働組合運動に関する通信をし、または証明書に秘密の記号を記入してはなりません(労基法22条4項)。
「国籍」「信条」「社会的身分」「労働組合運動」は限定列挙ですので4つ以外の事項について通信をしても本条に抵触しません。「秘密の記号」については、4つの事項に限定することなく記入を禁止されています。 あらかじめ計画的に就業を妨げることを禁止しており、照会に回答することは禁止されていません。
「退職の事由」については、自己都合退職、勧奨退職、解雇、定年退職等労働者が身分を失った事由を示します。解雇の事実のみについて請求があった場合、解雇の理由を証明書に記載してはならず解雇の事実のみ記載します(平11.1.29基発45号)。なお、厚労省主要様式ダウンロードコーナーに「退職事由に係るモデル退職証明書」が用意されています。
3.使用者の交付義務
証明書の請求に回数制限はありません。使用者は、同一の事項について何度でも請求に応じる必要があります。雇用保険の離職票の交付をもって証明書交付の義務を果たしたことにはなりません(平11.3.31基発169号)。
自己都合退職であっても、懲戒解雇であっても、請求があった場合は交付しなければなりません。 証明書の請求権の時効は、退職したときから2年です(労基法115条)。
5.実務に役立つQ&A
学生の納付特例使えるか ~夜間大学通いアルバイト~大学に通う子供がまもなく20歳になります。学生が20歳に達すると、年金の納付特例制度の対象になると聞きました。子供は、アルバイトをしながら夜間課程に通っていますが、申請できるのでしょうか。 |
日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の人は、国民年金の第1号被保険者となります(厚年の被保険者、厚年の被保険者の被扶養配偶者を除きます)。学生であっても強制加入の対象で、保険料を納める義務があります。しかし、一定要件を満たせば、納付の猶予を受けることができます(国年法90条の3)。
まず、学生であることが条件ですが、大学(学校教育法83条)、短大(同108条2項)、高専(同115条)、専修学校(同124条)などが対象となり(国年令6条の6)、夜間・通信課程も含まれるとされています。
次に、本人の所得が次の基準を下回る必要があります。
118万円+扶養親族等の数×38万円+社会保険料控除等
学生納付特例については、本人所得のみを考慮し、家族の所得の多寡は問いません。
6.助成金情報 治療と仕事の両立支援助成金「環境整備コース」
産業保健関係の助成金の中でも令和元年度から開始した新しい助成金です。がん等の傷病をかかえる労働者の治療と仕事の両立支援を行う事業主に対するものです。 支援制度の導入など環境整備を実施したことに対する「環境整備コース」と、実際に対象労働者に支援を実施したことに対する「制度活用コース」のふたつがあります。
どちらのコースも「両立支援コーディネーター」の配置や活用が要件となっています。 今回は「環境整備コース」について紹介します。
1.助成金の概要
下記の条件を満たして、新たに治療と仕事の両立支援にかかわる制度を導入したことに対して支給されます。
・両立支援環境整備計画を作成して認定を受ける
・がん等の反復・継続した治療が必要な労働者のための両立支援制度を導入する
・新たに両立支援コーディネーターを配置する
2.導入する両立支援制度の要件
がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎等の反復、継続して治療が必要となる労働者の、傷病に応じた治療のための配慮を行う制度
(例)時間単位の年次有給休暇
傷病休暇などの休暇制度(賃金支払いの有無は問わない)
フレックスタイム、時差出勤、短時間勤務、在宅勤務、試し出勤等の制度
※雇用保険一般被保険者である労働者に対して、雇用形態にかかわらず適用されることが必要です。
※労働者にこの制度を適用するための要件および基準や手続き等が、労働協約または就業規則に明記されていることが必要です。
3.助成金額
20万円(1企業または1個人事業主当たり1回限り)
4.手続きの流れ
① 両立支援環境整備計画の作成
両立支援コーディネーターを配置する月の初日または両立支援制度を導入する月の初日のどちらか早い方を起算日として1年以内の期間を計画期間として作成。
② 両立支援環境整備計画の認定申請
両立支援環境整備計画期間の開始6カ月前から1カ月前の日の前日までの間に、独立行政法人労働者健康安全機構へ提出。
③ 認定通知を受ける
④ 両立支援コーディネーターの配置
雇用している労働者に養成研修を受講、修了させる。
⑤ 両立支援制度の導入
認定された整備計画に基づいて両立支援制度を導入する。
⑥ 制度の導入と両立支援コーディネーター配置について労働者へ周知。
⑦ 治療と仕事の両立支援助成金(環境整備コース)支給申請
両立支援環境整備計画期間末日の翌日から2カ月以内に独立行政法人労働者健康安全機構へ支給申請。
7.今月の実務チェックポイント ~フィリピンPOLO,POEAの手続きが増加中~
フィリピン国籍者を雇用する場合、多くのケースではPOEA(Philippine Overseas Employment Administration)の許可を得る必要があり、具体的にはフィリピン政府が許可した人材会社を通して間接的に雇用することになります。その他にも雇用しようとする日本企業は六本木のフィリピン大使館内にあるPOLO(Philippine Overseas Labor Office)で登録や面接を受ける必要があり、フィリピン国籍者の雇用には日本国内の在留手続きとは別に違う手間がかかります。
従来はPOLO,POEAの手続きは比較的緩く、「ルールは知っているが…やってない人も多い…」という感じでしたが、現在ではかなり厳格化されています。フィリピン国籍者を雇用しているが手続きを行っていない場合、本人はもちろんですが雇用企業については今後は雇用を認めないなどの措置が取られる可能性が考えられます。
最近ではITエンジニアや英語対応者としてフィリピン国籍者を雇用するケースが増加しており、お客様からの問い合わせも増加しています。
このような状況のなか、ACROSEEDではお客様からのご要望に応えるために、フィリピン現地のエージェントとの業務提携を結びました。フィリピン国籍者を雇用したがPOEAの手続きをどこのエージェントに依頼したらよいかわからからない、POLOの手続きをどう進めたらいいか知りたい、このような場合に現地エージェントのご紹介と手続きのご案内を行っております。
POLO,POEAの手続きでお困りのことがあればご協力させて頂きますので、お気軽にご連絡ください。