メールマガジン「人事・総務レポート」
2020年04月 Vol.135
1.人事・総務ニュース
新型コロナで自主規制進む ~在宅勤務・時差出勤等導入~
感染拡大が懸念される新型コロナウイルス対策として、テレワーク・時差出勤・自宅待機等の規定を整備する企業が増えています。
厚労省がまとめた「事業者・職場のQ&A」では、一律の年休取得強制は労基法上問題があると注意を促す一方で、政府の対策本部は「感染者との接触機会を減らす観点から、テレワークの推進等を強力に呼びかける」としています。
ユニ・チャーム㈱では、濃厚接触した従業員等に対するガイドラインを作成しました。症状の有無にかかわらず2週間は自宅待機とすることを明示し、可能なら在宅勤務を行うこととしました。フレックス制のコアタイム弾力化等の対策も実施しています。
GMOインターネットグループは、2週間の在宅勤務を基本に、在宅勤務・出社時のルールを制定しました。出社は顧客対応等の必要がある場合等に制限し、通勤時には時差出勤・土日出社による混雑回避、タクシー利用等の対策を呼びかけます
最賃引上げに悩む中小を支援 ~助成額上限450万円にアップ~
補正予算により、事業場内最賃の引上げを支援する「業務改善助成金」が大幅に拡充されました。地域別最賃が、安倍政権の7年間で合計152円引き上げられ、中小・零細企業では対応に苦慮していますが、そのバックアップを図るのが目的です。
同助成金は、事業場内最低賃金と地域別最賃の差額が30円以内で、事業場規模が100人以下であること等が要件とされています。生産性向上のための設備投資(機械設備・POSシステムの導入、人材育成・教育訓練)等に要した費用の一部を助成します。
従来の引上げ幅「30円以上」コースは1月末で受付終了、新たに「25円以上」「60円以上」「90円以上」の3コースを新設、支給額上限を450万円(従来100万円)まで増額しました。その一方で、厚生労働省では、地域別最賃等の履行確保に向け、監督指導に注力するとしています。
ハラスメント防止で手引き作成 ~連合が職場での取組求める~
連合は、「ハラスメント対策関連法を職場に活かす取組みガイドライン」を作成しました。令和2年1月15日に「パワハラ指針」が公布されましたが、同時にセクハラ・マタハラ指針も改正されるなど、ハラスメント法制の整備が進んでいます。
ガイドラインは、パワハラ(労働施策総合推進法)、セクハラ・マタハラ(均等法)、ケアハラ(育介法)に関する各種指針で示された「事業主が講ずべき措置」(10項目)について、労組から事業主に求めるべき取組を提示しています。
例えば経営者の「方針の明確化」に関して、行動指針・就業規則には「取引先、フリーランス、求職者などあらゆる者を対象にハラスメントを防止する」と明記すべきと指摘しました。
パワハラについては、指針で示す例に該当しなくても対象を広く捉え、職場環境を害する行為全般に対して予防措置を要請する等の考え方を示しました。
2.職場でありがちなトラブル事情
1年契約を半分で解除 ~寮からの立退きも要求~Aさん達3人は、B社と年度単位(4月1日~翌年3月31日)の有期雇用契約を結び、働いていました。 ところが、契約更新を重ね3年目に入った9月に事件は起きました。突然、会社から10月31日付の解雇通知を受けたのです。さらに、解雇の期限から1週間以内に寮から立ち退くようにという通告付きです。 書面に解雇理由は書かれていませんでしたが、口頭で「赤字部門の閉鎖により、事業を縮小するため」と説明を受けました。 仕事と住居を一挙に失うに至ったAさんたちは、都道府県労働局長に対して指導・助言を求めました。 |
従業員の言い分
解雇日の時点で、まだ契約期間は5カ月も残っています。契約更新の交渉はまだ遠い先の話と思っていたのに、突然の解雇で、次の仕事も住居もみつかりません。
会社全体が閉鎖になったわけでなく、他の有期雇用社員はこれまで通り働いています。それなのに、社長は「違約金も支払わない」と取りつく島もありません。契約期間満了まで受領できたはずの賃金の補償を求めます。
事業主の言い分
今回閉鎖した部門の赤字は、1年、2年の話ではありません。事業縮小はやむを得ない選択です。
該当部署の従業員については、配置転換など雇用の維持に努めましたが、全員の雇用確保はムリといわざるを得ません。Aさん達には申し訳ないですが、解雇の撤回は考えていません。
指導・助言の内容
契約期間途中の解雇は、労契法17条で「やむを得ない事由がある場合でなければ解雇できない」と定められていますが、「やむを得ない事由がある場合」とは、解雇権濫用法理における「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められる場合」よりも狭いと解されています。
つまり、「通常の解雇以上にハードルが高い」という点を事業主側に説明したうえで、十分な話し合いを求めました。
結果
会社側が契約期間満了までの5カ月分の賃金の60%を支払い、12月末までの寮滞在を認めるという内容で、円満に決着しました。
3.経団連「2019年1~6月実施分昇給・ベースアップ調査」
賃上げは、定昇部分とベースアップ(ベア)部分に2分されます。
基本となる定昇部分の変動幅は大きくありません。賃上げ率は、ベア部分(物価上昇や会社業績・生産性向上等を反映する部分)に大きく左右されます。
経団連・東京経営者協会会員企業を対象に実施した調査によると、前年(2019年)に昇給・ベアともに実施した企業割合は62.0 %でした。近年では最高レベルだった2018年(66.5 %)に比べると、やや後退しています。
2020年、令和初の賃上げ交渉にも、新型コロナウイルスの暗い影が及んでいますが、どれだけの企業がベアを継続するのか、注目されるところです。
賃上げに際して、経営層は何を一番重視するのでしょうか。最上位に挙げられているのは、当然のことながら、自社の業績(63.6%)です。次が世間相場(42.1%)。3番目が、人手不足を反映して「人材確保・定着率の向上」(31.1%)という順番になっています。
4.身近な労働法の解説 ~労働者名簿~
1.労働者名簿の調製
使用者は、各事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日日雇い入れられる者を除く)について調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければなりません(労基法107条1項)。事業場の規模・法人・個人事業に関わらず、パート・アルバイト等雇用形態を問わず、全ての労働者について作成・整備します。ただし、日々雇い入れられる者は除かれます。 また、記入すべき事項に変更があった場合は、遅滞なく訂正しなければなりません(同条2項)。
2.労働者名簿に記入する事項(労基法107条、労基則53条1項)
・氏名 ・生年月日 ・履歴 ・性別 ・住所 ・従事する業務の種類 ・雇入の年月日 ・退職の年月日およびその事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む) ・死亡の年月日およびその原因
3.調製のポイント
・様式第19号(厚労省HPからダウンロード可能)が用意されていますが、調製に当たっては法定の項目が記入されていれば異なる様式を用いることもできます(労基則59条の2)。
・常時30人未満の労働者を使用する事業においては、上記2の「従事する業務の種類」は記入することを要しません(労基則53条2項)。
・労働者名簿と賃金台帳をあわせて調製することができます(労基則55条の2)。
・以下の要件を満たす場合は、電子データによって作成・保存することも認められます(平7.3.10基収94号、平17.3.31基発0331014号)。
・電子機器を用いて磁気ディスク、磁気テープ、光ディスク等により調製された労働者名簿に法定必要記載事項を具備し、かつ、各事業場ごとにそれぞれ労働者名簿を画面に表示し、および印字するための装置を備えつける等の措置を講ずること。
・労働基準監督官の臨検時等労働者名簿の閲覧、提出等が必要とされる場合に、直ちに必要事項が明らかにされ、かつ、写しを提出し得るシステムとなっていること。
4.保存期限
労働者名簿は、3年間※保存しなければなりません(労基法109条)。 ※民法改正に伴う改正労基法109条では「5年間」ですが、附則143条において当分の間「3年間」とされています。 保存期間の起算日は、労働者の死亡、退職または解雇の日です(労基則56条1号)。
5.罰則
労基法107条(労働者名簿)・109条(記録の保存)の規定に違反した者は、30万円以下の罰金とされています(労基法120条)。
5.実務に役立つQ&A
所定労働日だけ支給? ~被災パートの休業給付~当社で週3日勤務するパートが、通勤災害に遭い休業することになりました。保険給付は、週3日分しかもらえないのでしょうか。 |
休業給付は、労働者が通勤による負傷または疾病にかかる療養により労働することができないために賃金を受けない場合に、支給するものです(労災法22条の2)。
「休日又は出勤停止の懲戒処分を受けた等の理由で雇用契約上賃金請求権を有しない日についても…支給がされる」(浜松労基署長〈雪島鉄工所〉事件、最一小判昭58・10・13)と解され、公休日も含め、本来の勤務日以外の日も支給されます。
職場復帰後に再休職した場合や退職後でも、引き続き休業給付は受けられます。
療養開始日から1年6カ月を経過すると、休業(補償)給付等に年齢階層別の最高・最低限度額が適用されます(労災法8条の2第2項)。治療が長引けば、年齢によっては実際の給付基礎日額よりも最低限度額の方が高額になることもあります。
6.助成金情報 ~治療と仕事の両立支援助成金「制度活用コース」~
前回に続いて、がん等の傷病をかかえる労働者の治療と仕事の両立支援を行う事業主に対する助成金について紹介します。
今回は、実際に対象労働者に支援を実施したことに対する「制度活用コース」です。 制度を導入した段階で、前回紹介した「環境整備コース」の助成金が申請できますが、今回は、整備した制度と両立支援コーディネーターを活用して、実際に対象となる労働者に対して両立支援を実施したことに対する助成金です。
環境整備コースの支給を受けていなくても、このコースだけ単独で申請することも可能です。
1.助成金の概要
下記の条件を満たして、対象となる労働者に両立支援制度を適用した場合に支給されます。
・対象となる労働者に関する両立支援制度活用計画を作成し、認定を受ける。
・上記計画期間内に、両立支援コーディネーターを活用して両立支援プランを策定する。
・対象となる労働者に、両立支援プランに基づいて両立支援を適用する。
※両立支援コーディネーターとは
患者の両立支援のために、医療側と企業側の双方をつなぐ役割を期待して企業や病院に配置される。独立行政法人労働者健康安全機構が養成研修を実施している。 この助成金を受ける場合は、雇用している労働者(1年以上雇用見込みの一般被保険者等)が両立支援コーディネーターとして、活用計画の認定申請時点で対象事業場に配置されていることが必要。
2.対象となる労働者
下記のいずれにも該当する労働者
・がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎等の反復・継続して治療が必要となる傷病の治療と仕事との両立のために、一定の就業上の措置を要する者
・主治医の意見書において、一定の就業上の措置が必要な期間が3カ月以上とされ、かつ、事業主に対して支援を申し出た者
3.両立支援制度の要件
がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎等の反復、継続して治療が必要となる労働者の、傷病に応じた治療のための配慮を行う制度
(例)時間単位の年次有給休暇
4.助成金額
20万円(1企業または1個人事業主当たり1回限り)
5.手続きの流れ
① 両立支援制度活用計画の作成主治医の意見書を受けて、6カ月以上1年以内の期間を計画期間として、両立支援制度活用計画を作成する。
② 両立支援制度活用計画の認定申請
両立支援制度活用計画期間の開始日6カ月前から1カ月前の日の前日までの間に、独立行政法人労働者健康安全機構へ提出する。
③ 認定通知を受ける
④ 両立支援プランを策定し該当労働者に適用する
勤務時間や就業上の措置、治療への配慮などの具体的なプランを策定し労働者に適用する。プランの策定および適用にあたっては、当該労働者と面談させるなど、何らかの形で両立支援コーディネーターを活用する。
⑤ 治療と仕事の両立支援助成金(制度活用コース)支給申請
両立支援制度活用計画期間末日の翌日から2カ月以内に独立行政法人労働者健康安全機構へ支給申請する。
7.コラム ~技能実習制度に「宿泊業」が追加~
2020年2月25日、厚生労働省令と法務省令が改正され外国人技能実習制度2号の対象職種に「宿泊業」が追加されました。現在はコロナウイルスの影響で観光業は一時的に縮小していますが、2030年の訪日外国人旅行者の目標数が6000万人(2020年は4000万人)とされ、これに応えるために設けられたものと思われます。
従来は「技能実習1号」で1年間のみの受け入れでしたが、これにより「技能実習2号」へと移行でき、通算3年間の滞在が認められます。さらに、その後は条件を満たせば「特定技能1号」への移行が認められており、最長で8年間の就労が可能となります。
今後は宿泊業で外国人社員が活躍するものと思われますが、単に目の前の仕事を処理するだけの労働力の使いまわしではなく、日本企業をグローバルにけん引するような外国人従業員の戦力化が重要と思われます。現行では全員が最長で8年経過後には帰国となりますが、今後「特定技能2号」への移行が認められれば永住権の取得も可能となります。
「日本人だから、外国人だから」ではなく、実力があれば誰でもきちんと評価される受け入れ態勢づくりが、優秀な外国人が日本に定着するためにどうしても必要です。「特定技能2号」への移行は最も社会的な反発が強くハードルが高くなるとは思いますが、ぜひ実現させ日本社会に貢献する外国人が生涯を通して安心できる環境づくりを実現させてもらえればと思います。