メールマガジン「人事・総務レポート」
2020年05月 Vol.136
1.人事・総務ニュース
中小企業の健闘目立つ ~2020春季賃上げ~
新型コロナの流行拡大など交渉環境が悪化するなか、2020年春季賃上げ交渉が進行しています。先行する大手企業では、集中回答日(3月11日)に賃上げを獲得した50組合の平均(賃金カーブ維持分を除く)は1097円で、前年の最終集計を255円下回りました。
しかし、金属労協(自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線)の高倉議長は、「多くの労組が前年並みの賃上げ回答を確保できた」と評価しています。
中小企業も含めた後続企業の交渉については、連合の途中集計によると、3月19日時点で、賃上げ額(定昇+ベア)の加重平均が5880円、率で1.94%という状況です。
300人未満の賃上げ率が2.03%で上記の全体平均(1.94%)を上回るなど、中小企業の健闘が目立つ結果となっています。
労基・雇保法等の改正法成立 ~4月1日から一部施行スタート~
令和元年度末に「労基法等の一部を改正する法律」「雇用保険法等の一部を改正する法律」が成立・公布され、令和2年4月1日から施行(後者の一部は段階施行)されています。
労基法関連では、賃金等の消滅時効期間が5年(当分の間の経過措置で3年)に延長されました。
雇用保険法関連では、令和2年度から2年間、雇用保険率引下げの暫定措置を延長しています(令和2年度は一般の企業で1000分の9)。
労災法の改正は「公布から6カ月以内」の施行で、ダブルワーカーに対する補償内容を充実させます(2事業場分の賃金をベースとして給付基礎日額を算定など)。
次年度以降については、70歳までの就業確保の努力義務化(令和3年4月)、高年齢雇用継続給付の縮小(令和7年4月1日)等が予定されています。
パートの社保加入をさらに拡大 ~在職老齢も一部見直し~
通常国会に、年金の改正法案が上程されました。
パートの社会保険(健保・厚年)適用拡大に関しては、令和4年10月から規模(労働時間が正社員の4分の3以上の従業員数)100人超、同6年10月から同50人超に拡大するとしています。
60歳代前半の老齢厚生年金は、現在、賃金と年金の合計額が28万円を超えると、「在職老齢年金」の対象となり、年金額が減額されます。この支給停止の基準となる額を令和4年4月から47万円に引き上げます。
短期滞在の外国人の脱退一時金については、支給上限年数を3年から5年に延長します。老齢基礎・厚生年金の繰下げ支給の上限を令和4年4月より70歳から75歳に引き上げ、支給開始年齢を60歳から75歳の範囲で選択できる形に改めます。
2.職場でありがちなトラブル事情
紹介状持ってきたら手遅れ ~2度目の訪問は門前払い~Aさんは、清掃業B社の求人募集広告をみて、面接に赴きました。 仕方がないので、Aさんはハローワークまで紹介状をもらいに行き、再度、B社を訪問しました。ところが、今度は「既に募集人員に達したので、採用は締め切った」といわれてしまいました。 この理不尽な対応に激怒したAさんは都道府県労働局長の指導・助言を求めました。 |
従業員の言い分
担当者は「紹介状が必要」の一点張りだったので、心証を悪くしてもつまらないと思い、わざわざハローワークまで足を運びました。
そういう事情があるのに、2度目に行ったときは「今ごろ来ても、空きはない」と門前払いです。採用の件は今さら仕方がないとしても、今後の応募者のことも考え、この会社には態度を改めるよう指導してほしいと考えます。
事業主の言い分
今回の募集は広告だけでなく、ハローワークにも求人票を出していました。そこで、ハローワークを介在する形を採れば、より安心な人材の獲得につながるのではと考え、紹介状の提示を求めた次第です。
応募者が多かったこともあり、途中で方針を変更し、紹介状のない人も採用する結果となりました。しかし、今さら枠を増やして採用するわけにもいかない点をご理解していただきたいと思います。
指導・助言の内容
事業主に対し、「ハローワークの紹介状は、求人者の身元・能力を保証するものではなく、求人に応募する意思を書面にしたものにすぎない」と説明したうえで、不必要な指示に従った結果として、選考に間に合わなかったAさんに不利益を生じさせた点について注意を促しました。
結果
事業主は、「今後、採用基準を明確にし、公正な選考を行う」ことを約しました。
3.総務省「2019年労働力調査(詳細結果)」
人手不足の長期化により、労働力需給は「労働者の売り手市場」の様相を呈しています。企業は新規採用に加え、中途・経験者採用に積極的に取り組んでいます。
総務省の調査によると、転職者の数は2008年のリーマン・ショック後、大きく落ち込みましたが、その後、緩やかに上昇し、2019年は過去最高(比較可能な2002年以降)の351万人を記録しました。
転職者の離職理由も、2010年以降、「より良い条件の仕事を探すため」が右肩上がりで増加を続けています。
転職のパターンについても、変化がみられます。バブル経済崩壊後、企業は正社員を非正規に切り替えることで経営の合理化を図ってきました。しかし、2012年以降は、8年連続で「非正規から正社員へ転換した者」の数が「正社員から非正規へ転換した者」の数を上回る状況が続いています。
4.身近な労働法の解説 ~賃金台帳~
1.賃金台帳の調製
使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項および賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければなりません(労基法108条)。 事業場の規模・法人・個人事業に関わらず、パート、アルバイト、日々雇い入れられる者等雇用形態を問わず、全ての労働者について作成・整備します。
2.賃金台帳に記入する事項(労基法108条、労基則54条1項)
・氏名
・性別
・賃金計算期間
・労働日数
・労働時間数
・時間外労働時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数
・基本給、手当その他賃金の種類毎にその額
・賃金の一部を控除した場合にはその額
3.調製のポイント
様式第20号、または日々雇い入れる者用に第21号(厚労省HPからダウンロード可能)が用意されていますが、調製に当たっては法定の項目が記入されていれば異なる様式を用いることもできます(労基則59条の2)。
・賃金台帳は労働者名簿とあわせて調製することができます(労基則55条の2)。
・電子データによって作成・保存することも認められます(平7.3.10基収94号、平17.3.31基発0331014号)。この場合の条件は、「労働者名簿」(前号参照)と同様です。
・日々雇い入れる者については、「賃金計算期間」の記入は不要です。
・労基法41条の該当者については、「労働時間数」「時間外労働時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数」の記入は不要(労基則54条5項)ですが、41条該当者も深夜に対する割増賃金を支払う必要があることから、深夜労働時間数を記入するよう指導されています(昭23.2.3基発161号)。
・現物給与がある場合については、その評価総額を記入します(労基則54条3項)。
4.保存期限
賃金台帳は、3年間※保存しなければなりません(労基法109条)。
※民法改正に伴う改正労基法109条では「5年間」ですが、附則143条において当分の間「3年間」とされています。
保存期間の起算日は、原則として最後に記入した日です(労基則56条1項1号)。
※賃金の支払期日が、最後の記入をした日または記録が完結した日より遅い場合には、当該支払期日が起算日とされます。
5.罰則
労基法108条(賃金台帳)・109条(記録の保存)の規定に違反した者は、30万円以下の罰金とされています(労基法120条)。
5.実務に役立つQ&A
傷病手当に切替えか ~離職後ハローワークへ~私傷病で健保から傷病手当金を受給中に退職します。求職活動ができなければ、雇用保険の基本手当は受給できないと思います。雇用保険には傷病手当がありますが、離職後はこちらに切り替わるといった仕組みなのでしょうか。 |
傷病手当金(健保法99条)と傷病手当(雇保法37条)、名称は似ていますが、離職を機に切り替わるといったものではありません。
離職後も傷病手当金を継続して受給する場合、「労働の意思」はともかく「能力を有する」(雇保法4条3項)といえるかどうかの問題があります。労災法の休業補償給付その他これに相当する給付を受けている者について、「一般に労働の能力がないもの」と判断するとしています(雇用保険業務取扱要領)。
傷病手当に関して、求職の申込み(受給資格の決定)前からの傷病については、傷病手当を受給できません。健保から傷病手当金を受給しつつ、基本手当の受給期間延長(雇保法20条、雇保則30条)の手続きを採るようお勧めします。
6.助成金情報 ~新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金~
1.新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の基礎知識
業務外の事由により新型コロナウイルス感染症に罹患し、療養のため労務に服することができなくなった日から起算して連続3日間の待期を経て、4日目以降の労務に服することができない日に対して、被保険者に傷病手当金が支給されることになります。被保険者の既往の状態を推測して、診察の結果、初診日前の期間でも労務不能であったと医師が判断した場合は、初診日前の期間についても労務不能期間となり、傷病手当金の支給対象期間となります。(待期期間除く)
また、社内で新型コロナウイルス感染症の感染者が発生したことにより会社が休業し、労務に服することができない期間については、傷病手当金は支給されません。傷病手当金は、業務災害以外の理由による疾病・負傷等の療養のために、あくまでも被保険者が労務に服することができない場合に支給されるものですので、被保険者が労務不能と認められる状態でない限り支給対象とは認定されないことになります。したがって、家族が感染し濃厚接触者であった被保険者に、会社から出勤停止の命令が出た場合の自宅待機の期間であったとしても、被保険者本人が労務に服することができない状態であるとは認められないため、このような場合も傷病手当金の支給対象とはなりません。
すなわち、他の私傷病に係る傷病手当金と同じく被保険者本人が労務不能でなければ、支給対象と認められることはないということになります。 傷病休暇などの休暇制度(賃金支払いの有無は問わない)
※休業手当について(参考)
使用者の判断により会社が休業し、労働者を休ませた場合や、労働者に出勤停止を命じた場合の対応としては、労働基準法の使用者の責に帰すべき事由に該当するかを確認する必要があります。使用者の責に帰すべき事由に該当する休業の場合には、労働基準法に基づき、使用者は労働者に休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払う必要があります。
※傷病手当金の額(協会けんぽの場合)
傷病手当金の1日あたりの額は、被保険者期間の区分により次のように算出します。
2.新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金独自の取扱い
傷病手当金の支給要件のひとつである、被保険者の「療養のため労務に服することができない期間」については、通常は療養担当者(医師等)の意見や証明が必要となります。しかし、新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金については、やむを得ない理由により医療機関へ受診できず、医師の意見書を添付できない場合には、次のすべてを満たして申請を行うことが認められています。
① 支給申請書に医師の意見書を添付できない理由を記載する。
② 事業主が当該期間について、被保険者が療養のために労務に服することができなかったことを証明する書類を添付する。
7.コラム ~新型コロナと在留手続き~
新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、4月1日以降、73各国に対して入国拒否措置が取られています。このような状況の中、以下はお客様より多く寄せられている問い合わせです。
1)在留期間更新中に出国し、国内ですでに審査完了しているが、結果を受け取ることができない。
⇒ 行政書士などの代理人が海外にいる本人に代わり、新しく交付された在留カードを受領することが認められています。受領後は原本を海外にいる外国人に送付して、新しい在留カードで入国することになります。
2)自国を出国することはできたが、日本の空港で入国が拒否されている。
⇒ 4月1日以降は73か国に対して特段の事情がない限り入国拒否措置がとれています。特段の事情とは、主に航空機の乗務員、または、「永住者」、「永住者の配偶者等」、「日本人の配偶者等」、「定住者」の在留資格に該当する方です。これ以外の方の入国は原則として入国が認められていません。
3)取得したCOE(在留資格認定証明書)の有効期間3カ月が切れてしまう。
⇒ 3月10日よりCOEの有効期間が6か月間に延長されています。
4)観光で日本に滞在していたが、母国が海外からの帰国者の受け入れを拒否しており、予定通りに帰国できない。
⇒ 例外的に「短期滞在」の更新が許可されています。
5)感染を防ぐため、人で混雑した出入国在留管理庁に行きたくない。 ⇒ 3月~6月末までに在留期限を迎える人が行う在留資格の更新と変更については、当初の在留期間満了日から3カ月後まで受付が行われています。また、申請後の方で在留カードの受領のみの場合には、郵送での受け取りも行われています。現在では入場制限なども行われ、混雑はかなり緩和されています。
以上となりますが、現在の状態は緊急事態であり、出入国在留管理庁も十分に対応できていません。1週間後には対応が変わることもありますので、お困りのことがあればお気軽にご連絡いただければと思います。