パブリシティ

無料メールマガジン「人事総務レポート」のご案内

メールマガジン2021年09月

メールマガジン メールマガジン「人事・総務レポート」
2021年09月 Vol.152

1.人事・総務ニュース

裁量労働改正へ「道ならし」 ~調査で問題点整理~
 

 裁量労働制の改正は「働き方改革の一環としての労基法改正案(平成30年国会上程)」の中に含まれていましたが、審議の途中で「偽造比較データ」の問題がクロ-ズ・アップされ、法案から削除されるという一幕がありました。


 その後、厚労省では「実態を把握しなおして議論を再開する」という方針の下、再調査に着手しました。このほど、約3年を経て、調査結果が公表されましたが、企画型裁量労働制を採用する事業場の40%が見直しを求めていることが明らかになりました。

 

 要望の第1位は「手続き負担を軽減すべき」(77%)で、僅差で「対象労働者の範囲を見直すべき」(72%)が続いています。


 後者の範囲見直しについては、「『常態として』でなく、『主として』従事していればよいとすべき」(75%)、「法令ではなく、労使で合意された業務を対象とすべき」(52%)といった声が多数を占めました。今後、法改正も視野に入れ、さらに検討が進められる予定です。



定年までの賃金支払え ~懲戒解雇事由に当たらず~
 

 化粧品等製造販売会社A社に勤務していたBさんが懲戒解雇を不服として起こした裁判で、東京地方裁判所は処分を無効とし、定年までの賃金・退職金など約1400万円の支払いを命じました。

 

 BさんはA社会長のスカウトにより、事業部の部長職として入職しました。同部ではタイムカードの「代行打刻」が常態化し、Bさんも何度も部下に頼んでいました。

 

 事態が発覚した後、会社は降格および賃金減額処分を決定し、A社会長の意向に従い、賃金改定等通知書に署名捺印しなければ解雇すると通告しました。

 

 Bさんは同意を拒み、文書で差額の支払い等を求めましたが、会社は懲戒解雇に処しました。このため、降格処分・懲戒解雇を不服とする裁判を提起したものです。


 同地裁は降格を有効としましたが、基本給の減額は賃金規定に根拠がないという理由で認めませんでした(役付手当の減額は有効)。


 懲戒解雇については、「処分を正当化するほど企業秩序に重大な悪影響を生じさせるものとまでは認められない」と述べ、無効な基本給減額を含む書面への署名捺印を拒んでも処分の理由とならないと判示しました。


高齢者の二重加入へ細則整備 ~「みなし被保険者期間特例」は9月から~

 雇用保険の施行規則が改正されました。根拠となる法律は、第1に令和2年3月公布の改正雇保法です。労災保険のダブルワーカーの保護内容を強化(複数事業場の賃金を合算して保険給付)すると同時に、雇用保険でも高年齢者の特例加入の仕組みを創設しました。

 

 雇保特例加入の施行日は令和4年1月1日ですが、65歳以上の高年齢者が2つの事業所を合計して週20時間以上働く場合、本人選択に基づき、高年齢被保険者となれます。

 

 改正雇保則では、2事業所合算の対象となるのは「週5時間以上働く事業所」で、特例加入者を所管するのは高年齢者の住所・居所のハローワークとする点等を定めました。申出者は高年齢者本人で、事業主は「求めに応じて速やかに証明」を行う立場とされます。


 第2に令和3年6月に公布された育介法で、男性の育休取得促進に向けた整備が行われました。


 「みなし被保険者期間計算の特例(産休取得日等を起算日とする)」の施行日は令和3年9月1日で、「有期雇用者の育休要件の緩和(雇用期間1年未満の者も対象に)」は令和4年4月1日から施行されます。



2.職場でありがちなトラブル事情

仕事上のミスで集団いじめ ~精神不調でやむを得ず退職~

 老人ホームで働いていたAさんは、働き始めて半年後、仕事上の連絡ミスが原因で、同僚に迷惑をかけました。

 

 その後、周囲との関係が急激に悪化。「あなたはのろまで、やる気もない。もう辞めたら」などとののしられ、集団で無視される状況が続きました。

 

 仕事も与えられず、上長等にもとりあってもらえず、職場にいるだけで苦痛な状況が続いたため、最終的に退職を選択しました。

 

 うつ病の治療のため、働けない状態であり、経済補償を求めて紛争調整委員会のあっせんを申請しました。

従業員の言い分

 施設長に相談しましたが、「時間外のことは関与できない」と断られ、法人本部の人事担当者に電話しても、「苦情は施設長を通してください」とたらい回しの扱いです。

 

 施設長・本部担当者が親身に対応してくれれば、精神不調も発症しなかったと思います。補償金として200万円を要求しますが、「今後、同じような人が出ないよう対処する」と約束するのであれば、金額面で交渉の余地もあります。


事業主の言い分

 いじめの相談を受けていたか施設長に確認しましたが、そのような事実はなかったという話で、退職は「一身上の都合」という報告しか受けていません。

 

 しかし、Aさんがそれほどまでに追い込まれた心理状態になっていた点を法人として把握できず、至らない点もあったと思うので、補償金の交渉には応じたい。


指導・助言の内容

 「仕事外し・人間関係からの切り離し」はいじめ・パワハラのなかでも精神的苦痛が大きく、事業主には就業環境を整備する責務がある点を説明しました。


 そのうえで、両当事者の主張も踏まえたうえで、解決金の金額、その他の条件について話し合い・歩み寄りを促しました。


結果

 事業主が20万円を支払い、併せて和解文書に「将来にわたり、互いに相手を誹謗中傷しない」という一文を入れるという内容で、双方合意しました。



3.厚生労働省「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」

 会社と労働者個人の間で発生した「個別労働紛争」については、労基署内・駅前等に設置された総合労働相談コーナーを通じて速やかな解決が図られています。

 

 平成24年度以降、「いじめ・嫌がらせ」が相談内容のトップを占めています。令和2年度は、「いじめ・嫌がらせ」の相談件数が前年比9.6%減るという「異変」が生じましたが、職場環境そのものが改善されたわけではないようです。


 令和2年6月から大企業を対象としてパワハラ防止措置が義務付けられ、大企業のパワハラ問題は個別紛争解決法ではなく、労働施策総合推進法に基づき処理されるようになりました。このため、「個別労働紛争」の統計に計上されなくなったというだけの話です。




 令和4年4月からは、中小もパワハラ防止義務の対象となり、企業担当者としては「いじめ・嫌がらせ」問題の解消に向け、社内体制の整備が急がれます。


 個別労働紛争の解決策は、大きく「助言・指導」と「あっせん」に分かれます。前者(指導・助言)の処理状況をみてみましょう。


 処理総数の99.2%が「申出から1カ月以内」に処理されています。労使間の話し合いが座礁したときは、速やかな解決方法として「個別紛争解決の仕組み(事業主側も申出可能)」という選択肢も考慮すべきでしょう。






4.身近な労働法の解説 ~企画業務型裁量労働制~

 前回まで専門業務型裁量労働制について解説してきました。今回は、もう一つの裁量労働制「企画業務型裁量労働制」について解説します。


1.企画業務型裁量労働制とは(労基法38条の4)

 業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、「2.対象業務」に就く労働者について、実際に働いた労働時間にかかわらず、あらかじめ定められた労働時間働いたものとみなすことができる制度です。


 『令和2年就労条件総合調査』(厚労省)によると、導入企業割合は0.8%(1000人以上規模では4.8%)、適用を受ける労働者割合は0.2%でした。



2.対象業務

 次の①〜④が対象業務の要件で、すべて満たす必要があります。


①事業の運営に関する事項についての ②企画、立案、調査および分析の業務であって、③当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、④当該業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務です。


 ホワイトカラーの業務すべてが該当するわけではありません。



3.導入できる事業場

 いかなる事業場においても導入できるということではなく、上記対象業務が存在する事業場(対象事業場)です。具体的には、次のような事業場とされています。


・本社・本店である事業場
・当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行なわれる事業場
・本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に、当該事業場に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店等である事業場


 また、賃金、労働時間、その他の労働条件に関する事項を調査審議すること等を目的として、使用者および当該事業場の労働者を代表する者で構成する委員会(労使委員会)が対象事業場に設置されることが必要です。


4.労働者の範囲

 「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」であって、対象業務に常態として従事している者であることが原則とされ、指針によって示されています。


5.導入要件

 労使委員会で一定の事項について決議を行い、その決議を所轄労基署へ届け出なければなりません。 また、労働者の個別の同意を得ることが必要です。 必要な決議事項の詳細は、厚労省HP等をご確認ください。


6.その他

 労働時間のみなしが適用される場合であっても、休憩、深夜業、休日に関する法の規定の適用は排除されません。みなし労働時間が法定労働時間を超える場合や法定休日に労働させる場合は、36協定の締結、割増賃金の支払いが必要です。深夜業は、実際の深夜労働時間数に応じた割増賃金の支払いが必要です。



5.実務に役立つQ&A

失職中の給付受けられるか ~再雇用を約束し解雇~

  新型コロナの影響で経済活動が停滞しているなか、一部の従業員に対し、再雇用を約束していったん離職してもらうことを検討しています。この場合、再就職までの間の失業給付や再就職手当は支給されるのでしょうか。


 まず、ご質問のケースがそもそも「失業の状態」といえるのかですが、基本手当の受給には、労働の意思および能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態にあることが必要です(雇保法4条3項)。


 求職申込み前の契約等に基づき求職申込み後にも就労する予定がある者については、受給資格の決定の際に就職状態にない場合であっても、労働の意思および能力を慎重に確認しなければ受給資格の決定は行わないのが原則です(雇用保険業務取扱要領)。


 厚労省では、「再雇用を前提として離職し、従業員に再就職活動の意思がない場合には、(基本手当は)支給されません」としています(新型コロナウイルスに関するQ&A)。


 次に再就職手当については、給付の条件に「離職前の事業主に再び雇用されたものでないこと」(雇保則82条2項)とあります。ですから、こちらの申請もできない理屈です。




6.助成金情報 ~両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)~

 不妊治療のために利用できる休暇制度や両立支援制度を整え、実際に不妊治療を行う労働者に制度を利用させた中小企業事業主に支給される助成金です。


対象となる事業主

 不妊治療のための次の①から⑥のうちいずれかまたは複数の制度について、利用しやすい環境整備を実施し、不妊治療を行う労働者にいずれかの制度または複数の制度を利用させた中小事業主
① 不妊治療のための休暇制度(特定目的・多目的どちらでも可)
② 所定外労働制限制度
③ 時差出勤制度
④ 短時間勤務制度
⑤ フレックスタイム制
⑥ テレワーク


支給要件

次の要件をすべて満たすこと(原則として対象労働者が制度利用開始する前日までに)
(ア) 不妊治療と仕事の両立について社内ニーズ調査の実施
(イ) 整備した上記①から⑥の制度について、労働協約または就業規則への規定と周知
(ウ) 不妊治療を行う労働者からの相談に対応し支援する「両立支援担当者」の選任
(エ) 「両立支援担当者」が、不妊治療を行う労働者のために「不妊治療両立支援プラン」を策定


支給額

1中小事業主に対して以下の額が支給されます。


A 環境整備・休暇の取得等


支給要件を全て満たし、雇用保険被保険者である対象労働者が不妊治療のための休暇制度、両立支援制度を1年度内に合計5日以上利用した場合


28.5万円 (※生産性要件を満たした場合 36万円)


B 長期休暇の加算


上記Aを受給した事業主が、雇用保険被保険者である対象労働者に下記の不妊治療休暇制度を取得させたとき


・1年度内に20日以上連続取得
・原職または原職相当職に復帰(労働者の希望で原職等と異なる職務へ復帰する場合を除く)
・復帰後3カ月以上継続勤務


28.5万円 (※生産性要件を満たした場合 36万円)


※1事業主あたり1年度5人(一人につき1回)まで




7.今月の実務チェックポイント  ~被保険者または被扶養者の氏名変更について~

 今回は、社会保険等の手続上の氏名変更について確認したいと思います。


問題となる制度は3つ

 被保険者あるいは被扶養者の氏名が変更になったことで注意しなければならないのは雇用保険、健康保険、厚生年金保険の3つです。労災保険については、会社が加入する保険制度であるため従業員の氏名等に関してはもともと管理されておりません。また、健康保険には被扶養者、厚生年金保険には被扶養配偶者の制度がありますが、雇用保険にはありませんので、雇用保険については被保険者の氏名変更についてのみ考慮すればよいということになります。


被保険者の氏名変更について

 雇用保険の被保険者氏名変更届は、令和2年の1月に廃止されたため、氏名変更届単体のみでの申請は行えなくなりました。そのため、被保険者の氏名に変更があった場合は、下記の申請時に併せて申請していただくこととなりました。なお、氏名変更記載欄は、それぞれの申請書に設けられています。


・雇用保険被保険者資格喪失届
・雇用継続交流採用終了届
・雇用保険被保険者転勤届
・個人番号登録・変更届
・高年齢雇用継続基本給付金の支給申請(受給資格確認を含む)
・高年齢再就職給付金の支給申請
・育児休業給付金の支給申請(受給資格確認を含む)
・介護休業給付金の支給申請


 また、健康保険(協会けんぽ)、厚生年金保険につきましては、マイナンバー制度の導入により、原則として被保険者の氏名変更についての届出は不要となりました。全国健康保険協会は、日本年金機構がマイナンバーを活用して照会を行った変更情報の提供を受けて処理するため、届出を行わなくても自動的に新しい被保険者証が発行されて送付されます。したがいまして、マイナンバーと基礎年金番号が紐づいていない被保険者については、日本年金機構が変更情報の照会を行えないため届出が必要となります。組合管掌健康保険につきましても届出が必要ですのでご注意ください。


被扶養者について

 被扶養者については、マイナンバーによる氏名変更の届出の省略は行われないため、「被扶養者(異動)届」(組合管掌健康保険の場合は、書類名が異なることがあります)にて日本年金機構(組合管掌健康保険の場合は健康保険組合を含む)へ届出を行う必要がありますので、漏れがないようご注意ください。届出には、被扶養者の健康保険被保険者証の添付が必要となります。


まとめ


Copyright(c) 2018 ACROSEED Inc. All Rights Reserved.