外国人を雇用する企業の人事総務向け
メールマガジン「人事・総務レポート」
2022年04月 Vol.159
1.人事・総務ニュース
年休使えず休職期間満了? ~始・終期の時季指定不明確~
私傷病休職期間の満了で退職となった従業員が「年休取得が認められれば休職期間は伸びていたはず」と主張した事案で、東京地方裁判所は従業員側請求を棄却しました。
建材等の商社で働いていた従業員は、「ストレス反応で2カ月間の自宅療養になったので、「今月3日から年休をいただき、その後は病欠でお願いします」とメールを送信しました。
会社はそれに基づき「10日付で私傷病休職を発令」し、就業規則に基づき3カ月の休職期間満了後、退職という扱いになりました。従業員はいったん退職書類に署名押印しましたが、その後、就労可能という診断書を提出して復職を求め、争いとなったものです。
従業員側は「メールは可能な年休(19日)をすべて消化した後、休職に入る趣旨だった」のに会社は4日の消化しか認めず、退職に追い込まれたと主張しました。
しかし、裁判所は「年休は、労働者の意思のみで就労義務を消滅させる効果を発生させるため、始・終期は明確であることが必要で、メールは終期の明確性を欠く」と述べ、期間満了による自然退職を有効と判断しました。
求人・求職メディアへの規制を強化 ~事業開始届出等も義務化へ~
国会提出の「雇用保険法等の一部を改正する法律案」は、徴収法・職安法等の改正内容も含む一括法案です。
IT技術の進展に伴い、インターネット上には求人・求職情報があふれ、その情報の種類も多岐化しています。職安法の改正に関しては、そうした状況も踏まえ、雇用仲介業者の「マッチング機能の質的向上」を目指します。
まず、募集情報等提供事業者(ネット上の公表情報を収集する求人メディア等も範囲に含める形で定義を拡大)を、ハローワーク等と協力する雇用仲介事業者として位置付けると同時に、厚労大臣の改善命令の対象に加えるなど規制の強化を図ります。
特に「求職者情報」提供に従事する業者を「特定募集情報等提供事業者」と呼称し、事業開始の届出・事業報告書の提出等の行政手続きの対象とします。
感情的な対応はタブー ~日商がパワハラ防止冊子~
令和4年4月から、中小企業に対してもパワハラ防止措置が義務付けられます。日本商工会議所は、中小企業向けに、管理監督者の留意事項などを盛り込んだガイドブック(ハラスメント対策BOOK)をHP上で公開しました。
同会議所が実施した調査では、「パワハラ対策と適正な指導との困難」等の悩みを抱えている実態が明らかになっています。このため、ハラスメントの定義や実例、防止措置・事後対応等に至る一連の流れ等を詳しく説明しています。
管理監督者自身が感情的になってしまった場合、「日を改めて指導」するのが望ましく、「部下が泣いている間は、何をいっても論理的に理解されず、叱られたという記憶のみが残る」と指摘しています。
2.職場でありがちなトラブル事情
雇保の加入手続き遅れる ~教育給付でも不利益と主張~
会社を退職したAさんは、ハローワークに求職の申込みに行きました。ところが、基本手当の所定給付日数が思ったより少なく、期待した日数(180日)の半分(90日)しかありません。
窓口で説明を聞くと、会社が雇用保険の資格取得届を出した年月日が、Aさんの入社日よりかなり遅いことが判明しました。
失業給付の日数が少ないだけではありません。求職期間を利用して、雇用保険の教育訓練給付を受けようと計画していたのですが、こちらの受給要件も満たしません。
踏んだり蹴ったりの状態のAさんは、自分が被った損失を会社が補填するように求めて、あっせん申請を行いました。
従業員の言い分
「会社のミスなので何とかならないか」とハローワーク窓口で相談したのですが、「行政処分の時効である2年を経過していて、加入年月日の遡及はできない」という回答でした。
会社に対し、本来、受けられるはずだった基本手当との差額(90日分)と教育訓練給付未受講分の損失を合わせ、70万円の支払を要求しました。
事業主の言い分
手続きが遅れたのは、何度も催促したのに、本人が必要書類の提出を怠っていたからです。その後、ハローワークの助言を受け、ようやく書類なしで資格取得を認めてもらった経緯があります。
Aさんが速やかに協力してくれれば、今回のトラブルは回避できたわけで、すべてこちらの落ち度という主張は、当方として承服しがたいところです。
指導・助言の内容
事業主に対しては、「事情はどうであれ、雇保加入の手続きは事業主として果たすべき責任であり、何らかの補償を行う必要がある」と説得しました。
Aさんには、「教育訓練給付は、本人が講座を受講し、費用を支払って、初めて受給資格を得られる」という点を指摘し、未受講分の請求は撤回してもらいました。
結果
会社がAさんに対して和解金35万円を支払うことで合意が成立し、和解文書を作成しました。
3.厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和3年10月末)」
長期的な労働人口の減少を踏まえ、外国人労働者の受入増加は国の政策課題です。
それを受け、事業主に雇用される外国人労働者の数は、2021年10月末時点で、172.7万人に達しています。
2008年の48.6万人と比べると、約3.6倍増となっています。2019年には、特定技能資格の創設も受け、前年比19.9万人のアップとなりました。
しかし、それ以後は上昇カーブが鈍化し、2021年は前年比0.2%増にとどまっています。新型コロナによる短期的な影響なのか、見極めにはしばらく時間がかかりそうです。
在留資格別の割合をみると、「身分に基づく資格(永住者、日本人の配偶者等)」が全体の33.6%を占め、以下、「専門的・技術的分野の在留資格(経営・管理、特定技能等)」22.8%、「技能実習」20.4%の順となりました。
前年と比較すると、「技能実習」が12.6%マイナス、「資格外活動」が9.7%マイナスで、この2つが外国人労働者の増加にブレーキをかける主要因となっています。
4.身近な労働法の解説 ~定期健康診断~
労働安全衛生法において、事業者は労働者に対し、医師による健康診断を行うよう義務付けています。 今回は、定期健康診断について解説します。
1.定期健康診断の実施義務・受診義務
事業者は、常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に、安衛法66条に基づき安衛則44条に定める11項目について医師による健康診断を行わなければなりません。
腹囲、胸部エックス線検査等一部の検査項目については、それぞれの基準に基づき、医師が必要でないと認めるときは省略することができます。年齢等により機械的に省略するものではありません。
労働者は、原則、事業者が行う健康診断を受けなければなりません(安衛法66条5項)。
2.受診対象者
常時使用する労働者です(安衛則45条1項の特定業務従事者を除きます)。
なお、パート・アルバイトについては、1週間の労働時間数が、同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であるとき等となっています。
3.健診の費用
健診費用の負担については、法で事業者に健診実施の義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきとしています。
また、受診に要した時間の労働者の賃金は、労使協議で定めるべきものとしていますが、事業者が支払うことが望ましいとされています(昭47・9・18基発602号)。
4.定期健康診断の実施後に事業者が行うべきこと
(1)健康診断の結果の記録
定期健康診断の結果は、健康診断個人票を作成し、5年間、保存しなければなりません(安衛法66条の3、安衛則51条)。
(2)健康診断の結果についての医師等からの意見聴取
健康診断の結果に基づき、健康診断の項目に異常の所見のある労働者について、労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師(歯科医師による健康診断については歯科医師)の意見を聞かなければなりません(安衛法66条の4)。
医師または歯科医師の意見聴取は、定期健康診断が行われた日から3カ月以内に行わなければなりません。聴取した医師または歯科医師の意見を健康診断個人票に記載します(安衛則51条の2)。
(3)健康診断実施後の措置
(2)による医師または歯科医師の意見を勘案し必要があると認めるときは、作業の転換、労働時間の短縮等の適切な措置を講じなければなりません(安衛法66条の5)。
(4)健康診断の結果の労働者への通知
健康診断結果は、労働者に遅滞なく通知しなければなりません(安衛法66条の6、安衛則51条の4)。
(5)健康診断の結果に基づく保健指導
健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要がある労働者に対し、医師や保健師による保健指導を行うよう努めなければなりません(安衛法66条の7)。
(6)健康診断の結果の所轄労働基準監督署長への報告
常時50人以上の労働者を使用する事業者は、定期健康診断の結果について、遅滞なく、所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません(安衛法第100条、安衛則52条) 。
5.実務に役立つQ&A
就業場所間の通災か ~家業を終業後手伝う~
当社では兼業を許可制にしています。家業(自宅と別の店舗)を手伝いたいという申出がありました。終業後として、移動中の事故は通勤災害といえるのでしょうか。
就業の場所から他の就業の場所への移動も、通勤の範囲に含まれています(労災法7条2項2号)。
当該移動の間に起こった災害に関する保険給付は、「終点たる事業場」の保険関係で行う(労災則18条の5第2項、平18・3・31基発0331042号)としています。
終業後にアルバイト先へ向かうようなケースであれば、アルバイト先の保険関係で処理することになります。
家業が同居の親族のみを使用する場合、「労働者」には当たらない可能性があります(労基法116条)。労災保険でも、同様に解されます(労災法コンメンタール)。
6.外国人雇用関連ニュース ~3月から実施中 の 「外国人の新規入国制限の見直し」を解説~
1.新しい水際対策
2022年3月1日以降の水際対策では、以下の3点が変更されています。
2.入国後の公共交通機関の使用
3.外国人の新規入国制限の見直し
1.入国後の自宅等待機期間
以下の①、②を条件として、入国後の待機期間や待機場所が変更されます。
①「3日待機指定国」からの入国か否か(入国日前 14 日以内に滞在歴があるか否か)
②条件を満たした有効な新型コロナワクチン接種証明書を所持しているか否か
入国後の待期期間 | 有効なワクチン 接種証明書 | 「3日待機指定国」 からの入国 |
---|---|---|
(1) 待機なし |
あり | 該当なし |
(2) 3日間の自宅待機にプラスして
自主検査で陰性証明
(自主検査しない場合は7日間待機)
|
あり | 該当あり |
なし | 該当なし | |
(3) 3日間の検疫施設待機にプラスして
施設検査で陰性証明
|
なし | 該当あり |
2.入国後の公共交通機関の使用
以下の①、②の者については、空港から自宅等待機のために自宅などに移動する場合、必要最小限のルートに限定して、空港検疫での検査(検体採取)後 24 時間以内までは、公共交通機関の使用が認められます。
①指定国・地域からの入国者で有効なワクチン接種証明書を保持している者
②非指定国・地域からの入国者で有効なワクチン接種証明書を保持していない者
3.外国人の新規入国制限の見直し
3月1日以降、受入責任者(企業、団体等)の管理の下、以下の新規入国又は長期間の滞在の新規入国が認められます。
①商用・就労等の目的の短期間(3カ月以下)の新規入国
②長期間の滞在の新規入国(興行を含む)
※観光目的は認められません。
2.「3日待機指定国」(検疫所長の指定する宿泊施設での3日間の待機対象となる指定国・地域)
①アジア
ネパール、バングラデシュ、モンゴル、カンボジア、韓国、インドネシア、ミャンマー シンガポール
②北米
カナダ全土
③ヨーロッパ
イタリア、イギリス、ドイツ、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フランス ウズベキスタン、ロシア全土、スイス、アルバニア
④南米
ブラジル(サンパウロ州、パラナ州)、ペルー、メキシコ
⑤中近東
エジプト、パキスタン、インド全土、レバノン、イスラエル、トルコ、サウジアラビア スリランカ、ヨルダン、イラク、イラン、オマーン
⑥太平洋
モルディブ
3.本制度における入国手続き
2022年3月1日以降にビジネス目的で入国する場合には、厚生労働省の“入国者健康確認システム(ERFS)”を利用して入国する必要があります。以下は入国までの流れとなります。
(1) 利用準備
「入国者健康確認システム」(ERFS)に ログインし、“パスワード”と“証明書ファイル“を受領し、ご自身のPCにソフトをインストールします。
(2)事前登録
オンラインで事前申請し、外国人の新規入国者に関する待機場所などの情報を入力し、誓約事項の同意等を行います。
(3)受付済み証“のダウンロード
・登録後、受付済証(PDF)が発行されます。受入責任者は受付済証を ダウンロードし、海外で待機している入国予定者にメール等で送付します。
・入国予定者は、海外の日本大使館等に受付済証を提示し、ビザ申請書類一式を提出します。これを受けて、各在外公館は、審査を行った後、査証を発給します。
(4)入国者の行動管理
・入国後、入国者に対して、MySOS(入国者健康居所確認アプリ)を通じた健康状態、位置情報確認等が行われます。
・受入責任者は、待機施設での 待機や健康状態の確認や、入国者が有症状、陽性の場合の医療機関への連絡など、必要な管理・支援を行うことになります。
4.ACROSEEDのサービス
行政書士法人ACROSEEDでは、以下の業務に対応しております。
②入国者健康確認システム(ERFS)の登録代行
③外国人社員への海外大使館でのビザ申請の案内
また、2022年3月1日より行われている「水際対策強化に係る新たな措置(27)の4」についてのご相談も無料にて対応しております。ご質問やご相談はお気軽に下ご連絡ください。
7.今月のコラム ~コロナ禍の外国人雇用で起きていること【技術・人文知識・国際業務】~
前回に続いてコロナ禍の外国人雇用で起きていることをご紹介します。今回は「技術・人文知識・国際業務」で滞在する外国人についてです。
【技術・人文知識・国際業務】
「技術・人文知識・国際業務」は、企業の専門職や管理職などで用いられている在留資格で、現在の日本には約29万人の外国人がこの在留資格で滞在しています。一昔前は貿易担当者、外国語教師などの一部の業種でのみで採用されていましたが、現在では外国人留学生の新卒採用が広まったこともあり、ITエンジニアをはじめとして総合職で活用されています。
さて、このような「技術・人文知識・国際業務」を所持する外国人ですが、コロナ禍において目立つのは在留期間の更新に関連したトラブルです。在留資格は一度取得したら終わりではなく、1年、3年、5年などの定められた期間ごとに更新手続きを行わなければなりません。原則としてこの更新時に入管法で認められる業種での就労活動が行われていなければ、不許可となり本国などに帰国する事となります。そのため、多くの外国人は転職することに不安を覚え、特に在留期限ぎりぎりでの離職はなおさらです。そのため、勤務先の待遇などに不満があっても簡単に退職することもできません。その際には次の転職先を見つけてからとなり、日本人のように「その場で辞表を叩きつけてやった!」というようなシーンはまず想像できません。ひどい経営者となると在留期間の更新を人質にとり、雇用契約以下の賃金しか払わない、違う条件の業務につかせる、次回の在留期間の更新で必要となる退職証明を出さない、などのケースも見受けられます。そもそも、労働条件や就業ルールなどが明示されておらず、採用後にトラブルとなることも多くあります。コロナ禍で就職した人の中には不満を抱きつつも日本への滞在のために仕方なく勤務している人が多くいると思われます。
また、コロナ前にインバウンド需要を見込んで採用された外国人社員の場合、当初は外国人観光客の翻訳・通訳で活躍していましたが、現在ではその仕事そのものがなくなり、全く別の業務についていることも珍しくありません。雇用企業は何とか雇用を維持しようとして関係会社から仕事を集めてきますが、スーパーのお惣菜調理などの仕事しか見つからず、「技術・人文知識・国際業務」で1日中、お弁当作りに励んでる例も見受けられます。もちろん不法就労に該当しますので違法となりますが、解雇か不法就労かの選択を迫られ頭を悩ます企業様も多くあります。
最後に最も多く見られるのが派遣会社が絡んだ事例です。「特定技能」の在留資格が創設された2019年には、派遣法の改正も重なり、多くの人材派遣会社が外国人市場に参入してきました。以前から実績がある企業もあれば、本業が赤字で起死回生のために新事業として挑む中小企業も多く、まさに玉石混合といった状況です。雇用企業からしてみれば面倒な在留手続きなども面倒見てくれ使い勝手がよく、外国人からすれば求職活動などをすることなく一流の日本企業で働くことができるため、多くの方が活用しています。特に最近では新卒の外国人留学生が活用する事例が見られ、大学卒業後に派遣社員として働いている方も珍しくありません。しかし、コロナ禍で最初にしわ寄せが来るのは非正規社員であり、多くの方が雇止めなどで次の業務が見つからない状況となっています。中には派遣会社自体の経営が難しくなり賃金の不払いなどで苦しんでいる例も見られます。
多くのケースでは外国人労働者は日本人よりも弱い立場となりますが、最近では外国人を専門に扱うユニオンなども目立つようになっています。外国人だからといて弱みに付け込むような企業はそれなりの代償を支払うことが今後は増加すると思われます。新型コロナで苦しい企業もたくさんあるかと思いますが、こんな時だからこそ全従業員と一致団結して困難を乗り越えていく経営をめざすべきではないでしょうか。